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【読了】桜木紫乃著『蛇行する月』を読んで、幸せのスタイルを考えた

図書館の返却されたコーナーで目についた桜木紫乃さんの本。作者もそうだが、それ以上にタイトルに惹かれ借りた本。

これがいい本だった。

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【あらすじ】
道立湿原高校で同じ図書部員をしていた清美、桃子、美菜恵、直子、順子は、高校卒業と同時にそれぞれ違う道を歩み始めていた。そんなある日、地元で就職した清美のもとに、順子から「東京に逃げることにしたの」と電話がかかってくる。子供ができたので、妻のいる20も年上の男と駆け落ちするという順子。その後故郷を捨てて貧しい生活を送る順子だが、それでも「幸せ」だと言う彼女に、故郷で悩みや孤独を抱える同級生たちは引き寄せられていく─。2013年『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞した桜木紫乃の最新作!

【感想】

仲間内で一番大人しかった順子の行動、籍をいれないまま、それでも幸せと周りに伝える順子。幸せのスタイルは人それぞれなんだろうなと思わずにはいられない。周りの友人は、一見、不自由なく幸せそうだが、順子の純真さには、多分敵わないのだろう。理解できる部分と出来ない部分が共存しながら居る。理解できないというより、どこかに自身には持っていない純真さを持ち合わせていることに、負けを感じているのかもしれない。

駆け落ちされた奥さんから、離婚か失踪の確定を問われたシーン。男主人は失踪を選ぶのは、それでいい、それでもいい、手に入れた幸せがあるから、それを大切にするために失踪を選んだのだろう。それでは、周りは誰も敵わない。

幸せの得る方法、状況、守り方、守り抜き方、何より幸せの感じ方は、人それぞれ。だから、そのスタイルは幸せの数だけあるのだろう。

そう思うと、ホッとできもする。幸せは比べられないのだと。

北海道出身の著者は、そこを舞台にした物語がよく登場するが、今回の道立湿原高校の湿原という校名の付け方もそうで、高校ではあるが、それでも少しの湿り気を帯びた雰囲気の演出は、後のそれぞれの人生の違っていく様を表すのに効果的な校名だと思う。

守りたい幸せ、奪えない幸せ、比べられない幸せがあるんだと知る。

たとえそれらは普遍ではなくても、普遍を求めながら、人はそれぞれ、自分の幸せを噛み締めたいものなんだろうと思った。

心のほんの僅かな機微(きび)すら細かに描写する文体と、どちらかといえば弱者、敗北者に向ける柔らかい優しさが、桜木さんの真骨頂なんだろう。

タイトルの 蛇行する月 は、川面に写れば蛇行して見える月も、天ではぶれずに真っ直ぐ綺麗に光を放ち輝いている、という意味なのだろうと解釈した。太陽ではなくて、月というのもいい。

また読み返したい本に出会った。