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日々の気づきと雑感 食べもの、映画、本に天気が多いです

映画『すばらしき世界』を観て、社会を生きるを考える(なんて)

前日のうちにいつもの映画館の最後列を予約したら、日曜の朝にそのシアターに向かう。予約では真っ白の席が、ポツポツ埋まっているのは、西川美和監督が原作があるものの映画化に初挑戦というだけではなさそうと解釈したい自分がいる。

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(以下映画館のホームページから)

刑期を終え出所した元殺人犯・三上に、津乃田とTVプロデューサーの吉澤が取材を申し込む。三上は消息不明の母を探すため承諾するが…。不器用だが真っ直ぐな正義感を持つ元殺人犯の姿を通して、人間がまっとうに生きるとはどういうことか、この社会は”すばらしい世界”なのかを問いかける人間ドラマ。

(以下公式ホームページから)

 冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。
 刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫(役所広司)は上京し、身元引受人の弁護士、庄司(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に迎えられる。
 その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、津乃田(仲野太賀)のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤(長澤まさみ)から仕事の依頼が届いていた。取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。しかし、この取材には大きな問題があった。
 三上はまぎれもない“元殺人犯”なのだ。津乃田は表紙に“身分帳”と書かれたノートに目を通した。身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上の壮絶な過去に、津乃田は嫌な寒気を覚えた。
 後日、津乃田は三上のもとへと訪れる。戦々恐々としていた津乃田だったのだが、元殺人犯らしからぬ人懐こい笑みを浮かべる三上に温かく迎え入れられたことに戸惑いながらも、取材依頼を打診する。三上は取材を受ける代わりに、人捜しの番組で消息不明の母親を見つけてもらうことを望んでいた。
 下町のおんぼろアパートの2階角部屋で、今度こそカタギになると胸に誓った三上の新生活がスタートした。ところが職探しはままならず、ケースワーカーの井口(北村有起哉)や津乃田の助言を受けた三上は、運転手になろうと思い立つ。しかし、服役中に失効した免許証をゼロから取り直さなくてはならないと女性警察官からすげなく告げられ、激高して声を荒げてしまう。
 さらにスーパーマーケットへ買い出しに出かけた三上は、店長の松本(六角精児)から万引きの疑いをかけられ、またも怒りの感情を制御できない悪癖が頭をもたげる。ただ、三上の人間味にもほのかに気付いた松本は一転して、車の免許を取れば仕事を紹介すると三上の背中を押す。やる気満々で教習所に通い始める三上だったが、その運転ぶりは指導教官が呆れるほど荒っぽいものだった。
 その夜、津乃田と吉澤が三上を焼き肉屋へ連れ出す。教習所に通い続ける金もないと嘆く三上に、吉澤が番組の意義を説く。「三上さんが壁にぶつかったり、トラップにかかりながらも更生していく姿を全国放送で流したら、視聴者には新鮮な発見や感動があると思うんです。社会のレールから外れた人が、今ほど生きづらい世の中はないから」。その帰り道、衝撃的な事件が起こる・・・。

とある。

 

離別した母への想いを奥底に持ちながら実直、愚直ゆえに外道となった者の更生劇ではあるが、実直さ、愚直さを端的に現したものを外道と設定し、普段の社会の生きづらさ、生きることの大変さ、普段を普通に過ごすことの大変さ、大切さを描いた作品なんだろう。社会の持つ排他性と対極にある無関心さやそれ故の寛容さ、ひと一人の尊厳の大きさ、生きた証、それら社会での大きさ小ささ。それでもやはり、人間というか人間を取り巻く世界もすばらしき世界であり、あって欲しい。そんな願いがタイトルに込められているように思った。

会社社会、家族社会、地域社会、人間社会には、様々な括りで社会が存在する。人はひとりではないから、絶えず社会との接点がある。道を外れた人も皆がそう。関わり方を考え、間違えないように、そこが間違っていても、身の置き場をなくさないように、時には受け流し、見ないふりをしたり、そうやって、それでも生きていく。それは綺麗、そうでないでは括れない、両者を同時に含みながら、物事は存在しているように思う。そんな中でも、それでも生きるこの世界の美しさ、尊さ、素晴らしさをラストシーンで表現しているように思った。主人公に関わる人が、仮に自分の無力さを感じたとしても。

『ゆれる』という映画では、その終わり方の不安定さ、モヤモヤ感があるだけに、今回のエンディングがどうなるか気になったが、モヤモヤしないでスッキリしたのが良かった。

それと、役所広司の愚直ぶり、実直ぶり、老いぶり、無力ぶりの演技がすごく良かった。敬愛する役者に佐藤浩市がいるが、彼ではまだどこかにスマートさ、綺麗さ、キラキラ感が残ったままだろう。

作品、主演、監督の三拍子が揃ったいい映画を観た。良かった。