最低気温が10度台に下がれば、衣替えも本番。残しておく半袖とアイスコーヒーの出番を本気で考える。
そんな時に、作者名だけで、ほぼ考えなしに借りた最新作。ほぼ一気に読み終えた。
白石一文著『我が産声を聞きに』
【作品紹介・あらすじ】
人生に”もう一度”があるとしたら? 夫婦の意味、人生の意味を問う、熟婚小説。
新型コロナウイルスが世界を覆っている2020年9月、名香子が夫の良治から頼まれていっしょに向かった先は、都立がんセンターだった。そこで肺がんの診断を受けた良治は、一方的に家を出て好きな人と暮らしながら治療をすると名香子に告げる。呆然とする名香子だったが、事態は次々と思いもかけぬ方向へと進んでいくのだった。
【感想】
人生の岐路に立った時、運命と感じた時の判断を、本当にしたかった方に舵を切る人、切らない人。切れない人。切れない事を飲み込める人、飲み込めない人。それらを運命と感じる人、そうでない人。
多分、そのいずれにも、正しい答えや良し悪しは無いのだろう。素直な行動とも取れるが、一方では潜在的な裏切りにもなる。
タラレバから自由に解放されたい瞬間、それを考える瞬間を迎えられることは幸なのか不幸なのかはわからない。相手も同じ事を思っていたら、だから、おあいこということでもないのだろう。
こんな風に言い切ったり書いたりする事も、憚れるというか、躊躇される。
相変わらず、人の心の核心を突くというか、運命と感じる出来事を扱う、今回もそんなテーマだった。
男心を素直を描いて、その扱いを女性に預けているのではなく、やはり女性でないとわからない感情までは書けないのかもしれない。そんな潔い遠慮さも感じられる。
出版は今年7月で4月に初出の作品だが、コロナ禍の2020年のある時からの様子をリアルに取り入れていて、そこに初出までの間隔が短いことが、更にリアリティーを現在進行形のものにしている。
毎回、次回作が楽しみな作家の最新作を読めたことに感謝なり。